東京高等裁判所 昭和40年(う)2610号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、所論は、原判決が、新安保条約(昭和三五年六月二三日条約第六号、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約)の違憲であるかどうかの判断は裁判所の司法審査権の範囲外にあるものと解した点について非難しているが、最高裁判所は、いわゆる砂川事件に関する判決(昭和三四年一二月一六日大法廷判決)において、国家の存立の基礎に重大な関係をもつ高度の政治性を有する国家行為については、それが一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外であると判示しているのである。
当裁判所も、この判例の趣旨と見解を同じうするものであつて、最高裁判所の右見解をもつて憲法の解釈を誤つたものとすることはできないのである。そして、最高裁判所のこの見解は旧安保条約(昭和二七年四月二八日条約第六号、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約)に関連して示されたものであるが、本件で問題となつている新安保条約は旧安保条約に代わるものとして締結されたものであり、旧安保条約と同様に高度の政治性をもつ国家行為と認められるから、この新安保条約も、また原則として裁判所の違憲審査の対象とならないものといわなければならないのである。
二、しかしながら、かような国家行為であつても、前条のようにそれが明白に憲法の定める平和主義、国際協調主義その他憲法の条章に反するなど違憲性が極めて顕著である場合は、裁判所はその違憲を判定しうるのであるが、新安保条約は、わが国が主権国としてもつ固有の自衛権保持の目的のための一方策として採られた措置であつて、その目的自体、違憲性をもつと認められず、その他、本条約の原則、規定の体裁内容からみれば、本条約が法理的に明らかに憲法の定める前示の根本主義に反し、また憲法の条章に反するものとは、未だ認め難いのである。
所論は縷々として新安保条約の内容が憲法に違反することは、一見極めて明白であるとの立論をしているが、前示の如く当裁判所は、かかる見解に未だ左袒しえないのであり、従つて原判決が新安保条約の内容を、争う余地のない程明白に違憲とは認められないとして前記最高裁判所の判例の趣旨に従い、それ以上に立ち入つて違憲性の審査をしなかつたのは正当であると解するので、論旨は理由がない。(河本文夫 東徹 藤野英一)